設計図を描く、構造を計算する、模型をつくる──こうした建築の仕事の輪郭は、この先どう変わっているだろうか。AIが日常のインフラとなった社会において、建築という職能がどこへ向かうのかを、少し先まで見通してみたい。
ここで手がかりにしたいのは、2026年に行われたある最終講義をきっかけに語られた、3人の研究者の視点である。情報科学者の暦本純一氏は試行のスピードを、メディアアーティストの落合陽一氏は環境設計の重要性を、身体情報科学者の玉城絵美氏は身体性の価値を、それぞれ語っている。この3つの軸を使って、建築という仕事の近い将来を、いくつかのシナリオとして描いてみる。
シナリオ①:情報処理としての設計業務は、急速に縮小する
意匠案の初期検討、構造計算の下書き、法規チェック、見積もりの概算──こうした、ルールと過去事例の組み合わせで処理できる業務は、すでにAIが得意とする領域に入りつつある。試行回数を増やせる人ほど早くこの変化に適応できる、という暦本氏の指摘は、ここに重なる。今後数年のうちに、こうした業務に割く時間は、現在よりかなり少なくなっていくと考えられる。
シナリオ②:「問いを立てる人」の価値が相対的に上がる
その一方で、落合氏が言う「環境を設計する」という視点に立つと、AIに何を解かせるか、どんな条件を与えるか、という上流の設計力が、これまで以上に重要になる。建築の文脈で言えば、「この敷地で、誰のために、何を実現するべきか」という問いを立てる力は、AIに代替されにくい。むしろ、AIが選択肢を大量に出せるようになるほど、その中から何を選ぶべきかを判断する役割の重みが増していく可能性がある。
シナリオ③:身体的な経験の価値が、逆説的に高まる
そして玉城氏の視点に従うなら、情報としての建築(パースや図面、シミュレーション)がどれだけ精緻になっても、実際にその空間に身を置いたときの感覚は、AIには再現できない。これは逆説的だが、情報があふれるほど、実空間を訪れて確かめるという体験そのものの価値が上がっていくとも考えられる。見学会や体験型の設計プロセスが、これまで以上に重視されるようになるかもしれない。
断定はできないが、方向性は見えてくる
もちろん、これらはあくまでひとつの見立てであり、技術の進み方や社会の受け止め方によって、現実はもっと複雑な形をとるはずだ。ただ、試行のスピード、環境を設計する力、身体的な体験の価値という3つの軸は、建築という職能を考えるうえで、当面は有効な見取り図になるのではないかと思う。
この3つの視点を、建築構造工学の知見と重ね合わせて、より丁寧に考察した記事をSubstackで公開している。今回の見立ての土台になっている議論を、もう少し詳しく知りたい方は、あわせて読んでみてほしい。
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