木造建築2.0 / システム思考シリーズ
問題の設定:設計における「ルール」とは何か
設計とは、何らかのルールを適用するプロセスです。構造力学のルール、法規のルール、機能配置のルール——建築家や技術者は、明示的・暗黙的なルールの体系の中で設計行為を行います。
この「ルールをどこから持ってくるか」という問いに対する答えが、設計の歴史とともに変化してきました。
職人の経験則 → 構造力学の公式化 → コンピュータによる数値解析 → アルゴリズミックデザイン → 機械学習による自律的ルール抽出——この系譜を整理したとき、現在のAI設計研究は「ルール自体をシステムが発見・進化させる」段階に差し掛かっています。
菊竹清訓の「かた」:ルール層の設計という先見
1960年代、菊竹清訓は設計論として「か・かた・かたち」を提唱しました。
このフレームで最も独自性が高いのは「かた(システム)」の層です。菊竹は形(かたち)を目的とせず、その形を生成する「ルールと構造(かた)」を設計の主対象と定めました。形は、適切なシステムが機能した結果として自然に生まれるものだ、という立場です。
これは現代のコンピュテーショナルデザインにおける「アルゴリズムの記述」に相当します。杉原聡(東京大学)らのアプローチが示すように、人間がアルゴリズムを明示的に書き、そこから形を生成するという手法は、菊竹の「かた先行」の思想と構造的に同じ論理を持ちます。
Novelty Searchが意味するもの:ルールの自律進化
ケネス・スタンリーが提唱したNovelty Search(新奇性探索)は、通常の最適化と根本的に異なります。
通常の最適化は目的関数を設定し、その最大化(または最小化)を目指します。Novelty Searchはこの目的関数を持たず、「探索済み空間からの距離(新奇性)」そのものを駆動力とします。
この結果、あらかじめ人間が想定していなかった解空間が探索され、環境との相互作用から有効性を持った解が「生き残る」というダーウィン的なプロセスが生じます。
建築設計への適用を考えると、これは「あらかじめ決めた完成形への収束」ではなく、「環境との相互作用を通じた設計の進化」を意味します。菊竹が「成長する建築・変化する都市」として構想したものの、計算的な実装アプローチとして位置づけることができます。
CLT木造とDfMAによるシステムの物理実装
設計のシステム論は、それを物理的に担う材料・生産技術と対応する必要があります。
CLT(Cross Laminated Timber)を中心としたエンジニアリングウッドは、工場プレファブリケーションとの高い親和性を持ちます。パネルの規格化によって「設計の変数(パラメータ)」が明確に定義され、設計アルゴリズムとの連携が技術的に扱いやすくなります。
DfMAはこのプロセスをさらに整合的にします。設計段階から製造・組立・解体を変数として組み込む考え方は、「変化のルールを設計に内包する」というメタボリズムの要請と一致します。
図式的に整理すると次のようになります。
菊竹の「かた」設計 → 変化のルールを人間が構築する段階。AIのNovelty Search → ルール自体をシステムが探索・進化させる段階。CLT×DfMA → 進化したルールを物理的に実装する段階。
この三層構造が連携するとき、「設計・生産・更新が統合されたシステムとしての木造建築」という概念が、より具体的な輪郭を持ち始めます。
建築技術者の役割:ルール構築者としての再定義
この文脈では、建築技術者の役割も再定義が求められます。
「どう作るか(How)」の専門家から、「何のルールで作るか(Which Rule)」を問う専門家へ——この移行は、設計AIの進化に伴って、おそらく今後10〜20年で顕在化します。
CLTやハイブリッド木造の技術知識を持ちながら、DfMAの論理とシステム設計の思考を組み合わせられる技術者は、AIとの協働において独自の価値を発揮できる立場にあります。
菊竹が「かたから設計せよ」と言った言葉は、AI時代の技術者に向けたメッセージとして、今も有効性を持っていると考えます。
まとめ
菊竹清訓のメタボリズム思想、スタンリーのNovelty Search、CLT×DfMAによる木造建築の実装——これら三つの思想と技術の交差点に、次世代の建築システムの設計論が生まれつつあります。
この考察をさらに深めたコンテンツを、Substackで継続的に発信しています。木造建築2.0のシステム論・実装事例に関心のある方は、ぜひご覧ください。