朝、AIが一晩で生成した数千パターンのマスモデルに目を通す。耐震計算も、法規チェックも、LCA(生涯CO2排出量)の算定も、すでに終わっている。かつて徹夜で図面を描いていた若手の姿は、もうこのオフィスにはない。

これは遠い未来の話ではありません。2026年の今、私たちはすでにこの入り口に立っています。ここでは、その延長線上にある2035年の建築実務者の働き方を、ひとつのシナリオとして描いてみます。

シナリオ:ある建築家の一日

2035年、都市部の設計事務所で働く建築家の朝は、モニターチェックから始まらない。彼女が向かうのは、山間部の製材所だ。

そこで交わされるのは、需給予測の数字ではない。「この山を、あと何世代、健全な状態で残せるか」という対話だ。AIは価格の最適化はできても、山を守る職人たちの誇りや、次世代への責任感までは代弁できない。

午後、彼女は地場の鉄工所に立ち寄る。BIMデータはすでに機械的にマッチングされている。彼女が担うのは、その先――職人のこだわりを刺激する接合部のディテールを、対話の中から一緒に発明することだ。

夕方、彼女は施主と向き合う。AIが示すのは、A案とB案それぞれの経済合理性の試算にすぎない。「50年後、この街にとってどちらが資産になるか」という問いに答えを出すのは、彼女自身の哲学であり、決断だ。

「作業者」の消滅と「思想家」の始まり

この未来において、建築家はもはや「図面を描く人」ではない。森と都市、デジタルとフィジカルを行き来しながら、木材と建物が循環する仕組みそのものを編む存在になっている。

敷地の境界線の内側だけで完結していた思考は、上流の森林から下流の解体後まで、時間軸を大きく広げたシステムの設計へと拡張される。

AIが効率化するのは、既存の仕組みだ。「これまでにない循環の仕組みを発明すること」は、依然として人間にしか担えない。

この未来は、すでに始まっている

大げさに聞こえるかもしれません。しかし、ここに描いた変化の芽は、2026年の現場にすでに存在しています。作業から解放された建築家が、次にどこへ向かうべきか――その問いへの答えを、Substack「木造建築2.0」最終回でより深く論じています。

作業から解放された建築家は、何を考えるべきか